北の道11 サンタンデール ー Requejada(ポカンコ)


 
サンタンデールのアルベルゲを遅めの7時50に出発する。出勤時間と重なったようで歩道は凄い人出だ。ビジネスマンに混ざってヨレヨレバックパックスタイルはちと恥ずかしいものがある。
 歩道に埋め込まれたホタテをあしらったプレートを頼りに歩き続けるが、市街を抜けた辺りでこのプレートは品切れとなり、代わりに黄色い矢印がチラホラ現れだした。しかし、この矢印はそれほど親切ではなく程なく見失ってしまう。忙しい出勤時間なので悪いとは思うが、こっちも真剣なので二人の男性を捕まえてカミーノを聞いてみたところ、一人が知っていたので都会にしては良くできましたを上げたいところだ。だが、この人に聞いて歩いて行ってもカミーノを示す黄色い矢印は現れなくて、大きなラウンドアバウトに出たところでどっちに行ったらいいのか窮する。近くでスマホゲームに夢中になっている兄ちゃんに教えてもらおうと試みたが、予想通りこの兄ちゃんはカミーノを知らなかった。どこでも若い人はカミーノを知らなくて、年配の人は知っている確立が高い。

 仕方ないのでまたタブレットを引っ張り出して地図のGPSで凡その方向を調べ、こっちだろうと思う方へ歩き続け、バス停横のベンチで休んでいたら物好きなスペインおばちゃんが話しかけてきた。スペイン語は少しだけだと言ったら行ってしまった。スペイン人にしたら淡白なおばちゃんだったな、退屈しのぎにもっと話しかけてくれればいいのに。

 GPS頼りで歩き続けているうちに、偶然、本日のメインエベントがあるBoo de Pielgosの村までやってきていた。おっ、この村じゃんと気が付く。何でかと言うと、この村から川を越えるのには列車専用の鉄橋を越える必要があるのだ。列車専用なので勿論歩いて越えてはいけない。でも、この橋を渡らない場合は川をずっと遡って8kmも余計に歩かないとならないそうだ。さすがにそれは勘弁なので、強引に徒歩で渡ってしまうペリグリノがいると言うことなので私もそのコースだと思っていた。が、昨日のアルベルゲで聞くところによると「橋にはポリスがいる」との情報が!だからガイドブックでは鉄橋を越える区間の一駅を電車を利用しろと奨励しているそうだ。来る前は私も鉄橋なんか歩いてしまえと思っていたが、せっかく橋まで行って戻されたんじゃたまらないので、ひと駅電車を利用することに変更する。

 ちょうど巡礼路沿いに目的の駅Boo de Pielgosがあったので、次の電車を待つことにする。無人駅で駅舎も何にもなくて唯一券売機みたいのがあるが、見ても分からないのでチケットは電車の中で買えるだろうと待つことしばし、電車がやってきたので乗り込んでいく。パラパラと居た乗客は電車に似つかわしくない格好の私を見て怪訝な顔をしているが仕方なかろう。車掌から切符を買えるものと思っていたがこの箱には乗っていないのか、誰もやってこない。件の鉄橋はすぐあって、せいぜい50m程度の短い橋だったので、これなら列車が来ないのを見計らってすぐ渡れそうだった。
 乗った時間は2分程度で、すぐ次の駅Moguroに着いてしまったので結局そのまま降りてしまった。図らずも無賃乗車してしまったようだ。無人駅に降りると期待していた黄色い矢印はなかったが取りあえず腹に何か入れたいので駅前のバルに入ってトルティージャ(パン付き)とセルベッサ(ビール)グランデでお昼にする。食べ終わってから店の人にカミーノを教えてもらい歩き出す。


カタリナ登場

 乾いた道に敷設してある水道管だかガス管だか分からない大きな管の隣りを飽きるほど歩き続け、線路をまたぐ大きな歩行者用鉄橋を超えたらやっと今晩のアルベルゲRequejada(読み方が分からない、レケハダ?)に到着する。中に入っていったところ、先着のペリグリノが、ここは通りの反対側にあるバルでチェックインするんだと教えてくれる。そこへ行って5ユーロ払い無事にチェックイン完了。定員が14ベッドしかないアルベルゲで、私の後は残り2ベッドだけだった。次にやってきた黒人のアメリカ人ともう一人はセーフだったが、夕方やってきた南米のソロ女性は気の毒に満杯でチェックインすることが出来なかった。知った顔の女性だったので可愛そうだった。アディオスと言い残して次の宿を求めて出て行ったが、その女性と仲のいい男性が追いかけて行ったので、別の宿のアドバイスでもしてやったのだろうか。

 取りあえずチェックインしたら何を置いてもシャワーだ。ベッドルームから一旦外に出て一段下がったところがシャワールームで、入って行ったら下着姿になった年配の女性がいたのでギョッとする。ここは着替えるスペースもないようだ。肝心のシャワールームを覗いてみたらシャワーヘッドが4つ並んでいるだけで仕切りはおろか男女別でもないのが分かった。幾ら何でも一緒にシャワーを浴びる訳にはいかないだろう。朝ドラじゃないが、どうしたもんじゃろのうと少し考えて、ユーがシャワーしてる間、私はここで待っていると何となく告げるも、女性は忘れ物したとベッドルームに戻って行ったので、これ幸いとその隙にシャワーを浴びることにする。5分もあれば浴びることが出来るので、こういう緊急事態の場合はカラスの行水の私は便利だ。乾いた服に着替えていたら女性が戻ってきた。下着姿そのままで一旦外に出てから外階段を上がり皆がいる二階のベッドルームに行ってきたらしい。一緒にやってきた若い女性も私がいるのにパッションピンクのビキニ紐パンのまま年配の女性とキャッキャッとはしゃいでいる。欧米の人はこういうところが日本人と決定的に違う。女性はもとより若い男もおっさんも、みんながいる所で普通にパンツ姿で寛ぐし、これに慣れると日本人は裸に対して意識しすぎなんじゃと言う気がしてきた。

 チェックインしたバルにまた行ってビールを1杯飲んでから、5時過ぎてシエスタが終わった時間になったので雑貨屋まで行き、今晩と明日の食料を仕入れる。ビールは置いてなかったのでピーチジュースの1リットルを買っておく。全部で4.8ユーロ。

 
 アメリカ人がビールを飲みに行こうと誘ってくれるので、また道路を挟んだバルに行く。そのほかの人たちも揃って、これは中々いい時間だった。長い杖でお馴染みになったアルバニアの女性(右の写真左)やパッションピンクの女性(同右)も後からやってきて大盛り上がり。この女性の父親は盆栽が趣味で、かなり沢山の盆栽を育てているらしく、高いのは2,000ユーロだと言っていた。2,000ユーロって24万円だよ、ビックリ。以前見た日本のニュースで海外からやってきた盆栽マニアが鹿沼の盆栽タウンで視察してたのを見たことあると訳の分からない英語で伝えたら、自分のパパは行かなかったと言っていた。
 黒人青年の名前はカンザス、そういう名前の町がアメリカにあった気がするが出身地じゃなく名前が間違いなくカンザスだそうだ。シャワー室でバッティングしそうになった女性はオーストリアのカタリナ、60歳で今年定年退職したそうだ。オーストリアとオーストラリアが聞き取れないので何度も聞くはめになる。刈り上げのショートカットが良く似合ってシャキシャキしているので、現役中はさぞやバリバリのキャリア・ウーマンだったと想像できる。カタリナとはこの後も何日にも渡ってとても仲良くなる。

 自分の分のビール代金を払ってアルベルゲに帰ろうとしたら、カンザスが知らないうちに追加注文しといたので、それも飲んでから1杯分の2ユーロをテーブルに置いてみんなより一足先に就寝する。
 このころから妙に腰に違和感を感じ始め、休んだ後の歩き始めで苦労するようになる。これが今回の旅最大の危機の始まりだった。

北の道12へつづく